ぎふHM 2023年度
令和5年度 HM 第14日目
テーマ:「重要文化財建造物の保存活用事例について」
・全国の重要文化財の改修・整備の事例と、地域の景観・街並みに合った独自の活用
手法の研修
「保存活用計画の策定、補助事業の実施について」
・保存活用計画の策定事例について
・保存活用計画策定後の補助事業実施事例について
日時 :令和5年12月9日(土)13:00~17:10
場所 :OKBふれあい会館 14階 展望レセプションルーム
参加者:22名
次回のガイダンス
令和6年1月20日(土)開催の第15日目講座(ワークプラザ岐阜・真龍寺現場視察)の説明がありました。
特に開催時間が午前よりと変更になります、間違いのないようにとの事でした。
最初に建築士会 石黒会長の挨拶がありその後講師の先生紹介があり講義が始まりました。
石黒会長挨拶 米澤貴紀氏 講義風景
「重要文化財の保存活用事例について」
名城大学理工学部建築学科 准教授 米澤貴紀氏に講義して頂きました。
・今日の目論見
・重要文化財建造物(以下、重文)の「活用」とはどのようなものであるのかの紹介。
・修理・整備が建物の価値を守るものであるとともに、活用を考えたことは一対であることの
紹介。
・景観・街並みと重文の関係、整備・活用の事例紹介、特に文化的景観が重要である。
・文化財の活用とは
・文化財保護法第1条「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に
資するとともに、世界文化の進歩に貢献すること」
・従来は文化財の保護に重点が置かれてきた。
・文化財に対する関心が高まり、積極的な活用が希望されるようになる。
・現代社会で機能している近代の建造物、居住等に用いられている民家等では、積極的に使用
可能とし活用していくことが保存の前提。
・保存に対する配慮を欠いた利用は、その価値を損なうおそれもある。
・活用に当たっては文化財としての価値を損なうことのないように特別に配慮する必要があ
る。
・活用の方針
・公開
・最も一般的な方法。文化財を気軽に眺め親しめる存在にすることが、地域における最も有
効な文化財の活用の手法。
・建物内外の公開の機会を設けることが望ましい。
・外観の公開が基本。街並み、景観の構成要素となるものは、そこに在り続け、誰もがいつ
でも眺められること自体が活用。標識や解説資料などの充実、文化財の外観を引き立てる
周辺地区の整備等が望まれる。
・内部公開、敷地内に所在する文化財の外観公開では、所有者のプライバシー保護や宗教建
築としての性格の保持、管理方法等との調整が必要。
●事例 円覚寺舎利殿 永保寺観音堂・開山堂 正福寺地蔵堂 角屋 泉福寺仏殿 法隆寺
綱封蔵善堂寺庫裏
・機能や用途の維持
・文化財がもつ機能や用途を維持し、使い続けることは活用のひとつの在り方。
・文化財にとって建設当時の機能や用途それ自体が重要、それが維持されていることが文化
的価値の一部となる。
・本来の機能や用途も、時代の変化により変わっていく。特に民家建築における居住の形
態。
・これに応じた内部の改造等は、文化的価値を損なう可能性もあるが、従来の機能や用途
が、維持される意義は非常に大きい。
・したがって、本来の機能や用途の維持を出来る限り図るとともに、既に機能や用途が失わ
れている文化財についてもその復活が可能となるように十分に配慮すべきである。
●事例 吉田家住宅 福永家住宅 本芳我家住宅 箱木家住宅
・新しい機能や用途の付加
・建物が本来持っていた機能や用途が失われた後に、新しい機能や用途を加えて積極的に
活用する方法。
・特に本来の機能や用途を維持できなくなった建物においては、公開の機会の拡大につな
がり、文化財の魅力を広く伝える手法として有効。
・歴史的建造物の活用に名を借りて実質は文化財の価値の破壊行為となる事例も散見され
る。
・機能や用途に当たっては、文化財の持つ価値の所在を把握し、改造等の実施による価値の
損失を最小限にとどめ、むしろその魅力を引き出すような手法を確立することが求められ
る。
●事例 旧第四高等中学校本館 旧名古屋高等裁判所 旧朝香宮邸 太刀川住宅・店舗
那須家住宅 旧金毘羅大芝居「金丸座」
・現代的な用途での利用
・利用者のための環境と文化財の価値とのバランス。
・利便性、文化財のイメージ(経済性)
・エアコン、照明、コンセント等の位置(隠す)注意。
・バリアフリー、アクセシビリティ、WC、休憩所、売店など。
・文化財の価値と利便性のバランスに注意が必要。
・活用と文化財価値の両立
・文化財は、改変部分を含めて構造・空間構成・部材・各部の技法などあらゆる部分に独自
の価値を見出せる。
・あらゆる面に価値があることを強調して現状を変えることを頑なに否定することは、改造
を伴う活用の有効性を全く否定してしまう。
・本来の機能や用途を維持する場合でも、部分的な現状の変更は避けられないことがある。
・文化財保護の要である保存と活用の両立にあたっては、現状を変更してはならない部分
と、変更もやむを得ない部分を十分に議論して認知しておく必要がある。
・文化財の価値に応じた判断
・文化財の価値は様々。
・位置や規模を含めた外観に文化的価値の力点があるとみなされるものがある。
・活用のための内部の改造は、文化的価値を必ずしも大きくは減じないと判断される場合も
ある。
・細部に価値の力点があるとみなされるもの。
・装飾部材や特殊な技法・仕様を損傷しない配慮。
・景観・まちなちと重文の活用
・まちなみ・景観と重文建物
・景観・環境と一体となった文化財の保全活用が求められる。
・文化財が景観をつくり、景観が文化財の価値を守る。
・景観・まちなみの性格を重文建物が代表的に示す。
・まちなみ・景観の歴史と成り立ちを理解してもらうための活用。
●事例 内子町・本芳我家 京都三条通・旧日本銀行京都支店 竹富町竹富島・旧与那国家
住宅 金沢ひがし茶屋街・志摩 函館・太刀川家住宅店舗・東本願寺函館別院・旧
函館公会堂
・まとめ・文化財のほ保存と活用
・文化財としての価値を保つことが大前提。
・その上で、適切な活用の方法とそのための整備方針を考える。
・建物単体だけでなく、敷地全体、周辺のまちなみとの関わりにtういていも考える必要があ
る。
・そこに建っている意味と価値、回りへの影響。
・建物の価値がどこにあり、それをどう伝えるか。
・物語(ストーリー)の設定が重要。魅力的な物語が建物の活用を促し、人々に知られ、保存の
意識が強まっていく。
・建物、まちなみが、「国民の文化的資質の向上」「世界文化の進歩」にどのように貢献する
か、を考えることになる。
以上が米澤先生の話でした。文化財の保存・活用の重要性について事例を多く紹介して頂き有意義な講義でした。
石黒会長より講師の先生の紹介があり講義が始まりました。
可児奈緒美氏 講義風景 講義風景
「保存活用計画の策定、補助事業の実施について」
県文化伝承課 伝統文化係 可児奈緒美氏に講義して頂きました。
1.保存活用計の制度について
2.補助事業について
3.保存活用計画の策定事例
4.計画策定後の補助事業の事例
1.保存活用計画制度について
(保存活用計画制度)
・所有者・管理団体は保存・活用の方針を定め保存活用計画を作成し、国に認定を申請するこ
とができる。
・認定保存活用計画に記載された行為(現状変更等)は、許可を届出とするなど手続きの弾力化
が可能となる。
【県内の策定事例】
・旧遠山家住宅保存活用計画(白川村・平成28年) 重要文化財
・旧北岡田家住宅保存活用計画(大野町・平成31年) 登録有形文化財
・旧宮川家住宅主屋保存活用計画(岐阜県・令和2年) 登録有形文化財
・保存活用計画期間と記載事項
・重要文化財(建造物)
おおむね10年程度を想定して、個別の文化財ごとに制定
・計画記載事項
・文化財の基本情報等 ・文化財の保存活用の状況
・保存管理の方針・計画(保護方針、管理・修理計画) ・環境保全の方針・計画
・防災の方針・計画 ・活用の方針・計画 ・文化財保護に係る諸手続き
【保存活用計画】
・平成31年 文化財保護法改正で法制化(平成11年策定指針)
・保存、防災、環境保全、活用の四計画
・所有者と行政の共通理解を醸成 <特に重要>
・文化庁長官の認定(法改正による)
修理の届出の簡素化 現状変更の提案と事前許可
【保存活用計画の標準構成】
(1) 計画の概要 :建物の背景とその価値づけ
(2) 保存管理計画 :保存管理の現状把握、価値づけの優先順位
(3) 環境保全計画 :建物の周辺の環境について
(4) 防災計画 :防火、耐火、耐風に対する状況
(5) 活用計画 :慣例法規を踏まえ、総合的に活用
(6) 保護に係る諸手続き:必要な届出・許認可等
・文化財建造物は千差万別、建造物ごとに活用の手法は異なる。建造物の個性に適した活用
方針を立てることが望まれる。
【登録有形文化財】
・県の申請の流れについて説明があった。
1月に市町村の関係部署に申請物件があれば3月中に応募申請して、6~7月に文化庁に
よる現地調査、登録候補物件の選定、諮問案の作成、と進行して行きます。
・登録有形文化財建造物修理等補助対象となる事業の内容
設計監理事業、公開活用事業、災害復旧事業
・その他の登録有形文化財建造物の補助事業
美観向上整備事業、活用環境強化事業、地域のシンボル整備事業
・保存活用計画制度の策定事例
旧宮川家住宅主屋
・保存活用計画策定後の補助事業の事例
旧宮川家住宅主屋 公開活用事業
以上が県文化伝承課 可児様の講義でした。文化財の保存活用・補助事業、登録有形文化財の申請の流れを詳しく説明頂き有意義な講義でした。