ぎふHM 2023年度
令和5年度 HM 第5日目
テーマ:文化財建造物の防災・減災について及び災害時の対応について(講義)
文化財建造物の耐震対策について補強・修繕の要点を学ぶ(講義)
日時 :令和5年7月8日(土)13:00~17:10
場所 :講義 岐阜県水産会館 中会議室
参加者:23名
文化財建造物の防災・減災について及び災害時の対応について(講義)
岐阜大学准教授 村岡治道氏に講義して頂きました。
村岡治道氏の講義風景
村岡氏は防災コンサルティングの経験を活かし、3歳児から高齢者まで幅広い層に防災の講義をされているそうです。防災の観点から考えると、建築士として公共施設を設計する際は、デザインに走らず避難しやすいものにして欲しい、非構造物・ガラスが災害時に凶器とならないような計画をして欲しいと話されていました。
これまでの災害では、がれきと一緒に文化財が埋もれてしまい、それを判別できない為に消失してしまったものもあるそうです。その為に災害時の保存の対象を「未指定文化財」にまで拡充されており、地域の誇りである(代替不能)な文化財を消失させない為にどうすれば良いか、ということが今後の課題として挙げられているそうです。
「災害対策基本法」では国と各都道府県が防災計画を作成し、それに沿って対策が取られるので、我々はその計画を把握しておく必要があると話されました。このことは、後でも何回か口にされていましたので、我々がヘリテージマネージャーとして活動する場合にまず確認し、ある程度理解しておくとが大切なのだと思います。
「防災」と「減災」についてのお話をいただきました。
用語の定義として「防災」とは災害を未然に防止し、被害の拡大を防ぎ、復旧を図ること。
(復旧はぼうさいなのか疑問だと話されましたが・・・)
国が作るものは「防災基本計画」で、それを基に都道府県がつくるものを「地域防災計画」と呼ばれる。
「災害応急対策」とは、災害の発生を防御し、災害の拡大を防止する。
文化財に限ったことではありませんが、古い木造建築では電線等の劣化や、知識のない方がやってはいけないことを行い、地震での倒壊や漏電火災に繋がることがあります。文化財は往々にして古い木造建築物が多いので、そうした防災の知識も必要になってくるのだなと思いました。
国、県は文化財の台帳を作成し、管理者は県に被害状況を報告しなければいけないので、我々は行政や持ち主、管理者に対し、様々な知識、経験を活かして適切にアドバイスをすることが求められます。
「減災」の「災」とは自然災害ではなく、自分に降りかかる「災い」として考えた方が良い、そして「減」とは全てを「防ぐ」つもりでいなければいけない(必ず漏れが発生する)とお話されました。
「縮災」とは被害後の速やかな回復で被害額を極力減らすことである。
発災の瞬間は「自助」しか出来ない、自助をしていなければ「共助」も出来ない、役場でも防災教育をしっかりとしていないので「公助」も出来ない。その為に国民一人一人「自助」をする必要があり、その為の備えをしておくことが何より大切であるとの事でした。
村岡氏が考える「防災の本質」について教えていただきました。
防災とは、自分で自分の命を「守る」ではなく、「守っておく」と考えることが大切で、災害が起こった後の行動は、何かを失った後であるので「敗戦処理」だと考えているそうです。
プロアクティブの原則として以下の3つを上げられました。
① 疑わしいときは行動せよ 様子を見るな!確立や妥当性を論じるな!
② 最悪の事態を想定して行動せよ 「まさか!」と思うような物語を考えろ!
③ 空振りは許されるが、見逃しは許されない 何かあってからでは手遅れ!
その判断は発注者に任せることになりますが、命に係わるようなことは、最悪を想定して例え可能性が低いとしても行動し、言うべきことは言い、極力被害が少なくなるように行動すべきです。
ここからは実際の事例を基に、我々が持ち主、管理者へすべきアドバイスや段階毎の課題についてお話いただきました。
文化財であっても災害時には安全配慮義務があるので、震災時の倒壊予想を行い、避難経路を指示する必要があります。また防災訓練については、現実に被災したことをイメージして取り組むべきです。
段階毎の課題として、事前予防段階では災害復旧事業の方針やインベントリー(台帳)システムを作成し、マンパワーを解消する為広域連携による運用手法の開発も必要となります。
応急対応段階では指定、未指定の区別なく、同時に調査する必要があり、復旧・復興段階では早急な復旧要請と慎重な調査との軋轢の解消(状況により変化)があります。
最後に2つの震災の被害調査と復旧の事例をご紹介いただき、震災時に気を付けるべき点をお話しいただきました。
(阪神・淡路大震災)では、多量の未指定文化財を取捨選択することの必要性が分かりました。そして専門職の絶対数が不足していた為、増員が必要となり、ヘリテージマネージャーが進められたそうです。
(熊本地震)では、HMの派遣協力要請を単県士会ではなく、連合会に出すことで円滑に対応出来ました。初動は各都道府県での対応となるので、HMの人数確保に課題があるそうで、この講習は大切なものだと改めて感じました。
制度を作るのは国や県であるが、それを活用する復旧に向けた助言等の支援助言が出来るのはHMですので、しっかり学ぶべきです。
災害時に気を付けるべき点としては、地震発生時の避難誘導があります。
本棚が倒れる、また建物が倒壊するまでの時間は5秒程度ということで、文化財であっても耐震補強について考え予見と回避が大切となります。
車輪が付いているものは地震時動き続け、物は飛んでいく。技術者として正しく予見し、避難ルートの確保が出来るよう正しく提案する必要性を教えていただきました。
誘導しやすいように安全スペースを点在させ、そこにいる方、働いている方にも周知する必要があります。
文化財に対して想定出来る全ての技術的助言を提案する、それを予算等で選ぶのは管理者である。
文化財建造物の耐震対策について補強・修繕の要点を学ぶ(講義)
岐阜県森林文化アカデミー教授 小原勝彦氏に講義して頂きました。
建築基準法では中地震に対しては、地震後も建物を継続して使用できること、大地震に対しては、建物が崩壊しても人命を守ることを目的としています。
現状の耐震診断では震度5程度で損傷防止は求められていません。
文化財の基礎診断では3つの水準が設けられていますが、専門診断では細かい水準は定められていない。
構造要素毎の考え方を教えて頂きました。木造では接合部が一番大切であるそうです。
耐力壁が柱のない梁上に乗っていると、梁せいをかなり大きくしなければいけなくなり、梁上耐力壁は50~70%の低減があるそうです。
梁等の横架材は欠き込みが多くされている為、注意が必要となります。
たわみ制限は基準では1/250以下とされていますが、実地では1/300や1/400で検討される方が多いとの事。
新築の基準を文化財にも適用するのが正しいわけではないが、基準として確認しておくべきです。
常時微動測定とは建物の固有振動数を計測することで、建物の全体的な傾向を示すことができます。
固有振動数が大きい程、壁量充足率が高く、損傷程度が軽くなるそうです。
(震度7想定で3.0Hzでは大破、6.0Hzでは軽微な損傷となる)
常時微動測定を行うことで、限界耐力計算と同等程度の荷重変形曲線を得ることが出来るそうです。
ここから、耐震補強事例を交えながら耐震補強の効果検証のお話を伺いました。
本日の両名の講習で、文化財建築物だから災害時に建物に影響が出て、人に危険を与えても良いという事はないので、価値を残しつつ耐震性をいかに上げるか、いかに防災対応するか、深く考えていかなければいけないということを学びました。