ぎふHM 2022年度
HM第14日目
テーマ:重要文化財の改修・整備の事例と、地域の景観・街並みに合った独自活用方法の研修
(環境計画及び修復の技法・工法)(講義)
保存活用の策定について(保存活用計画制度及び策定、策定後の補助制度の説明につい
て)(講義)
「建築基準法第3条の解説と該当建築物について」
日時 :令和5年1月21日(土)13:00~17:10
場所 :OKBふれあい会館 3階 301会議室
参加者:30名
米澤貴紀氏 講習風景 講習の様子
講義①:重要文化財の改修・整備の事例と地域の景観・街並みに合った独自活用方法の研修
「重要文化財の保存活用事例」について、名城大学理工学部 建築学科助教 米澤貴紀氏に講習し
て頂きました。
1.重要文化財の保存活用事例
<文化財の活用とは?>
文化財保護法第1条には、「文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もって国民の文化的
向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献すること」とあり、従来は保護に重点が置かれ
てきた。
また、国際的な原則を示しているUNESCO「文化遺産および自然遺産の国内的保護に関する
勧告」(1972年)にも「文化遺産及び自然遺産の保護、保存及び整備活用について責任を負
う」とある。
近年まで、社寺建築などは現代的な活用には馴染まないものが中心であることから、保存が
優先されてきた。
しかし、近年では、文化財に対する関心が高まり、積極的な活用が希望され始めた。
現代社会で機能している近代の建築物、居住等に用いられている民家等では、継続的に使用
可能とし活用していくことが保存の前提であり、保存のための公有化される文化財建造物を、
公共の施設として活用する動きが出てきた。
文化財の価値、後世に伝えることへの理解を広げ、深めるために、保存とともに活用を適切
に進めることが大切だと考えられる。
保存に対する配慮を欠いた利用は、その価値を損なうおそれもあり、活用にあたっては文化
財としての価値を損なうことの内容に配慮する必要がある。
<活用の方針>
Ⅰ.公開
Ⅱ.機能や用途の維持
Ⅲ.新しい機能や用途の付加
Ⅳ.活用と文化財的価値の両立
Ⅰ.「公開」
最も一般的な方法。文化財を気軽に楽しめる存在にすることが、地域における最も有効な文
化財の活用方法。
建物内外の公開の機会を設けることが望まれる。
外観の公開が基本。まちなみ、景観の構成要素となるものは、そこに在り続け、誰もがいつ
でも眺められること自体が活用。標識や解説資料などに充実、文化財の外観を引き立てる周辺
地区の整備等が望まれる。
内部公開、敷地内に所在する文化財の外観公開では、所有者のプライバシー保護や宗教建築
としての性格の保持、管理方法との調整が必要。
〇円覚寺舎利殿→年に2回公開
〇永保寺観音堂、開山堂→上手な公開設定をしている
〇正福寺地蔵堂→年に3回内部公開
~公開の仕方の事例~
〇角屋:1階と2階に分けて、入場料を別途徴収
~文化財の価値をどこに見るか~
〇泉福寺仏殿(大分県国立市)修理では元禄7年の状態に復元
〇法隆寺綱封蔵(奈良県生駒郡斑鳩町)→修理にあたって、当初の姿に復元
〇善導寺庫裡(福岡県久留米市)→耐震性を確保するために大胆に鉄骨の補強
Ⅱ.「機能や用途の維持」
文化財がもつ機能や用途を維持し、使い続けることは活用のひとつの在り方。
文化財にとって建設当時の機能や用途それ自体が重要、それが維持されていることが文化財
価値の一部となる。
しかし、本来の機能や用途も、時代の変化により変わっていく。特に民家建築における居住
の形態。
これに応じた内部の改造等は、文化的価値を損なう可能性もあるが、従来の機能や用途が維
持される意義は非常に大きい。
したがって、本来の機能や用途の維持をできる限り図るとともに、既に機能や用途が失われ
ている文化財についてもその復活が可能となるように十分に配慮すべきである。
〇吉田家住宅(埼玉県)所有者は同一敷地内の別建物に住んでいるため、内部も見学が可能
〇福永家住宅(徳島県鳴門市)製塩業を営んでいた家・塩田、製塩施設も併せて整備・復元
〇本芳我家住宅(愛媛県喜多郡内子町)外観と庭園は公開・現代の生活を営むための整備が行
われた
〇箱木家住宅(兵庫県神戸市)現存最古の民家のひとつ・公開に主眼をおいた活用
Ⅲ.「新しい機能や用途の付加」
建物が本来持っていた機能や用途が失われてしまった後に、新しい機能や用途を加えて積極
的に活用する方法。
特に、本来の機能や用途を維持できなくなった建物においては、公開の機会の拡大につなが
り、文化財の魅力を広く伝える手法として有効。
歴史的建造物の活用に名を借りて実質は文化財の価値の破壊行為となり事例も散見される。
機能や用途の変更に当たっては、文化財の持つ価値の所在を把握し、改造等の実施による価
値の損失を最小限にとどめ、むしろその魅力を引き出すような手法を確立することが求められ
る。
〇旧第四高等中学校本館(石川県金沢市)・現在は、石川四高記念文化交流館
〇旧名古屋高等裁判所(愛知県名古屋市)・現在は名古屋市市政資料館
〇旧浅香宮邸(東京都港区)・現在は東京都庭園美術館
〇太刀川住宅・店舗(北海道函館市)・元は米国商の商店兼住宅
〇那須家住宅(宮崎県椎葉村)・並列型民家の代表的な例
〇旧金毘羅大芝居「金丸座」(香川県)・現存最古の芝居小屋
~現代的な用途での利用~
・文化財の価値と利便性のバランスを考慮する
Ⅳ.「活用と文化財価値の両立」
文化財は、改変部分を含めて構造・空間構成・部材・各部の技法などあらゆる部分に独自の
価値を見出せる。
あらゆる面に価値があることを強調して現状を変えることを頑なに否定することは、改造を
伴う活用の有効性を全く否定してしまう。
本来の機能や用途を維持する場合でも、部分的な現状の変更は避けられないことがある。
文化財保護の要である保存と活用の両立にあたっては、現状を変更してはならない部分を十
分に議論して認知しておく必要がある。
文化財の価値は様々であり、位置や規模を含めた外観に文化的価値の力点があるとみなされ
るものがある場合、活用のための内部の改造は文化的価値を必ずしも大きくは減じないと判断
される場合もある。
細部に価値の力点があるとみなされるものの場合は、装飾的部材や特殊な技法・仕様を損傷
しない配慮をするなど、文化財の価値に応じた判断が求められる。
2.景観・まちなみと重文の活用
<まちなみ・景観と重文建物>
景観・環境と一体となった文化財の保全、活用がもとめられる
→文化財が景観をつくり、景観が文化財の価値を守る。
景観・まちなみの性格を重文建物が代表的に示す。
まちなみ・景観の歴史と成り立ちを理解してもらうための活用。
〇内子町_本芳我家・八日市・護国の町並み(重伝建・愛媛県喜多郡内子町)・漆喰壁
〇京都・三条通_旧日本銀行京都支店・近代京都の経済の中心街、京都の近代をよく示す
〇武富町武富島_旧与那国家住宅・台風に備えた造り、珊瑚を使った塀
〇金沢・ひがし茶屋街_志摩・江戸時代に開かれた茶屋街
〇函館_太刀川家/函館別院/旧函館区公会堂・幕末~明治の近代の風景
3.まとめ
<文化財の保存と活用>
文化財としての価値を保つことが大前提。
その上で、適切な活用の方法とそのための整備方針を考える。
建物単体だけではなく、敷地全体、周辺のまちなみとの関わりについても考える必要があ
る。
→そこに建っている意味と価値、周りへの影響
建物の価値がどこにあり、それをどう伝えるか
→物語(ストーリー)の設定が重要。魅力的な物語が建物の活用を促し、人々に知られ、
保存の意識が強まっていく。
建物、まちなみが、「国民の文化的資質の向上」「世界文化の進歩」にどのように貢献する
のか、を考えることが求められる。
講習の様子 講習の様子
吉村晶氏 講習風景 講習の様子
講義②:保存活用計画の策定について
「保存活用計画の策定」について、岐阜県文化伝承課 伝承文化係 吉村晶氏に講習して頂きま
した。
1.保存活用計画制度及び策定について
[保存活用計画制度]
所有者・管理団体は保存・活用の方針を定めた保存活用計画を作成し、国に認定を申請する
ことができる。
認定保存活用計画に記載された行為(現状変更等)は、認可を届出とするなど手続きの弾力
化が可能となる。
[県の策定事例]
・旧遠山家住宅保存活用計画(白川村・平成28年)
・旧北岡田家住宅保存活用計画(大野町・平成31年)
・旧宮川家住宅主屋保存活用計画(岐阜県・令和2年)
[保存活用計画の標準構成](章立て)
(1)計画の概要:建物の背景とその価値づけ
(2)保存管理計画:保存管理の現状把握、価値づけの優先順位
(3)環境保全計画:建物の周辺環境について
(4)防災計画:防火、耐震、耐風に対する状況
(5)活用計画:関連法規を踏まえ、総合的に活用を検討
(6)保護に係わる諸手続き:必要な届け出・許認可等
実際の例として、(重要文化財)旧遠山家住宅の内容をご紹介して頂きました。
2.策定後の補助制度について
(1)国宝・国重要文化財
(2)登録有形文化財
(3)県重要文化財
各文化財についての補助制度・補助事業等のご説明をして頂きました。
吉田尚弘氏 講習風景 講習の様子
講義③:建築基準法第3条の解説と該当建築物について
県建築指導課nの吉田尚弘氏に、「建築基準法第3条の解説と該当建築物」について講習し
て頂きました。
<歴史的建築物に対する建築基準法の適用>法第3条
第1項:
国宝・重要文化財等→自動的に建築基準法を適用除外としている。(第1号・第2号)
自治体が指定する文化財→安全性の確保等について建築審査会の同意を得ることで、建築基
準法の適用除外が可能。(第3号)
第2項:「既存不適格建築物」について定めた規定
第3項:「既存不適格建築物」の規定を解除して現行規定を適用することとするための規定
<景観重要建造物・伝統的建造物群保存地区内の建築物に対する制限の緩和>
法第85条の2(景観重要建造物である建築物に対する制限の緩和)
第85条の3(伝統的建造物群保存地区内の制限の緩和)
<既存の建築物に対する制限の緩和>法第86条の7
・構造耐力関係、防火関係、用途地域関係、容積率関係等の規定に適合しない既存不適格建築
物の増築等について、政令で定める範囲内で行う場合に限り、遡及適用しない。(第1項)
→令第137条の2~12において、特例の対象となる増築等の範囲を定めている。
・構造耐力規定(法第20条)又は避難関係規定(法第35条)が適用されない既存不適格建
築物については、増築等をする独立部分以外の独立部分に対しては、遡及適用の対象としな
い。(第2項)
→令第137条の14において、特例の対象となる独立部分の範囲を定めている。
・建築物の部分にかかる規定の適用を受けない既存不適格建築物については、増築等をする部
分以外の部分に対しては、遡及適用の対象としない。(第3項)
→令第137条の15において、居室関連・設備関連の規定において部分適用の対象範囲を
定めている。
<全体計画認定>法第86条の8
・増築、改築、大規模の修繕、又は大規模の模様替えを含む工事を2以上に分けて行う場合、
全体計画認定を活用すると、工事と工事の間は既存不適格が解除されない。
・2以上の工事の最後の工事の終了時点で、現行基準に適合させる必要がある。
<用途変更概要>法第87条
・建築物の用途を変更して、200㎡を超える特殊建築物とするばあいは、類似用途への用途
変更を除き、建築確認及び工事完了の届出が必要(第1項)
・用途変更の際には、建築行為を規制する[用途規制(第48条)]等についても規定を適用
(第2項)
・既存不適格建築物の用途変更に際し、類似用途への用途変更を除き、既存不適格の一部を解
除し、現行基準への適合(遡及適用)させることが必要(第3項)
・各規定の性格上、用途変更による影響が及ぶ部分と及ばない部分を分離できる場合、用途
変更が行われる部分と一体になっている部分のみが、遡及適用の対象となる。(第4項)
<用途変更の手続きが不要・遡及適用されない類似用途について>
令第137条の18 用途変更の確認申請が不要な類似の用途について定めた規定
令137条の19第1項 用途変更に伴う既存不適格が解除されない類似の用途について定め
た規定
<用途変更時における既存不適格遡及>法第87条第3項
・既存不適なく建築物を用途変更する場合、用途変更時に既存不適格遡及の工事を行なう必要
がある。
・ただし、増築等を行う場合は、所定の条件を満たせば全体計画認定を活用することが可能。
歴史的建築物の保存に対する規定と緩和について、基準法上の根拠を整理して学びました。
講習風景 福田勝好氏 報告の様子
全国ヘリテージマネージャーネットワーク協議会
昨年10月、第10回全国ヘリテージマネージャーネットワーク協議会総会がありました。
岐阜県建築士会からは、福田様、今井様が、賛同団体である建築士会として参加されまし
た。
全国のヘリテージマネージャーの登録状況の現状などについて報告がありました。
岐阜県のヘリテージ講習会は次年度も、今年度と同様の講座を行う予定。